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瀬織津姫神

鉄の女神Ⅱ

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出雲市平田町の芦高神社のご祭神である赤衾伊農意保須美比古佐和気能命(あかぶすまいぬおおすみひこさわけのみこと)は、斐伊川の砂洲を守る彦神(『島根の神々』島根県神社庁)と記されていると前回、紹介した。

▼芦高神社
芦高神社鳥居1
▼芦高神社拝殿
芦高神社拝殿

吉野裕『風土記』は、「赤衾伊農意保須美比古佐和気能命の赤衾は、清浄な寝具の意で伊農(寝ぬ)にかかる枕詞的称辞であり、意保須美は大炭霊で採鉄の神、砂鉄の神の系統の神であろう」と記されている。この神の対偶神が、風土記の秋鹿(あいか)郡の伊農(いぬ)の郷に登場するアメノミカツヒメである。

菊池展明『出雲の国の女神』で触れているので読んでみる。

出雲の多具(多久)の国の神-原・出雲国の大神より

(前略)アメノミカツヒメはタカヒメ(高姫)=タキヒメ(滝姫)でもあったが、古代、カ行音の変転に法則性はなく、タキの「キ」が「ク」に転じることはありえたこととおもう。このことは、月神の「月読」をツキヨミではなくツクヨミ、白山ゆかりの「菊理媛」をキクリヒメではなくククリヒメと訓じているなど、その例は多い。アメノミカツヒメという滝神ゆかりのタクの国である。これは「タキ(滝)」の国であった可能性がある。タカ(高・多賀)、タキ(多吉・多伎・多岐・多芸・多気)、タク(多久)・タケ(多気・竹)、タコ(多古)と、これら類音の地名が多いことは出雲国の特徴の一つで、しかも、これらの過半の地名にアメノミカツヒメという滝神の影が落ちているようだ。
 さて、東の多久川ゆかりの多久神社は、風土記の神祇官非登録社にすでに「多久社」とあったように、ここは奈良時代(以前)にさかのぼる古社である(松江市鹿島町南講武)。同社境内の由緒案内はユーモアのセンスで書かれていて、読む者を少しほっとさせる。

  多久神社
  主祭神 天甕津比女命(産土大神、氏神様)
  合祀神 素盞嗚命、建御名方命、大物主命、応神天皇、市杵島姫命等十一柱
  祭 日 祈年祭 三月十一日  夏 祭 七月十五日
    例 祭 十月十一日  新嘗祭 十二月十一日
    六月大祓式 六月三十日
  由 緒
 御当社の主祭神は天甕津姫命と称奉る女神様で、八束水臣津野命の御子、赤衾伊農意保須美比古佐和気能命の御后神様であります。
 夫神様の佐和気能命が「出雲の国は狭布の如き稚国なり」と国土経営開発の大業をなされた際、その神業を補翼し大功績をお挙げになられた神性勇剛で見目美わしい女神様であります。
 偶々開発の中途で余程お困りになられた事があったようで、出雲国風土記の一説に「伊農速[いぬはや]と仰せられた」と所載されています。現代風に言うならば「あなた速くおいでになって下さい」ということになりましょうか。 

 出雲国におけるアメノミカツヒメの受難をそのまま穏やかに受け容れ、その「夫神様」(赤衾伊農意保須美比古佐和気能命)とともに「国土経営開発の大業をなされた際、その神業を補翼し大功績をお挙げになられた神性勇剛で見目美わしい女神様」と自社祭神を紹介する、この由緒書の作者のセンスはすばらしい。
 由緒は、「国土経営開発の大業」をなした神は「夫神様」で、その「大業」をなす動機として「出雲の国は狭布の如き稚国なり」ということばを引いている。このことばは、いうまでもなく、風土記が記す八束水臣津野命のものである。それを「伊農の大いなる彦神」のことばとして紹介している。由緒の作者が風土記をよく読んでいることは、女神の「伊農速[いぬはや]」という秋鹿郡伊農郷条に記されていたことばの引用をみればわかる。作者は、この姫神の受難を理解した上で、「偶々開発の中途で余程お困りになられた事があったよう」だとしているのである。「あなた速くおいでになって下さい」というアメノミカツヒメのことば(気持ち)は虚空に響いたままだが、この女神の思いを「余程」汲むことのできる神職が、この多久神社にはいるようだ。(後略)
▼多久神社案内板
多久神社 案内板

▼多久神社(松江市鹿島町南講武)
多久神社 1
▼芦高神社と対面して伊努神社(平田町)にもアメノミカツヒメが祀られている。
伊努神社2

長い引用になってしまったが、赤衾伊農意保須美比古佐和気能命という採鉄の神の対偶神が、アメノミカツヒメという神であり、この神を滝神と菊池氏は考察していた。そして多久の国は、原・出雲国であり、国譲りの舞台であったのかもしれない。


吉野裕『風土記世界と鉄王神話』には、「クラ」は朝鮮語kol(谷)、満州語holo(谷)と同系語であるということが記されており、
『風土記』の讃容郡の郡名縁起のなかで「この山の四面の一二の谷あり、皆鉄を出す」とあり、このように見れば、『風土記』の語るクラとは鉄を産する谷であり、帰化人が占居するとことろであると。さらにクラは、たんに山容だけを意味するものではなく、<砂鉄>をも意味したのではと、中津市の闇無浜神社で柿本人麻呂と伝えられている歌を紹介している。

  吾妹子が赤裳ひづちて植ゑし田を刈りてをさめむ倉無(くらなし)の浜

吉野氏は、『これは倉無の浜という地名の面白さから発想されたもので他意はなかろうが、この地名そのものは「クラ穴師(砂鉄精錬)の浜」と見たほうがよく・・云々』と書いている。吉野氏の考察が正しければ、闇無浜も砂鉄精錬の浜となり、闇無浜神社は、瀬織津姫神を祀ることからも鉄の神との関連も考えられるのである。
▼闇無浜神社
闇無浜神社

他にも滋賀県の佐久名度を闇戸に比定した本居宣長の説を引用し、「人身にとりて谷の如くなる処は」と<股グラ>はホト(陰部)であり、すべての<クラ>はホトを中心にして形成され、それはいわば産鉄族として生命の在りどころ、いわゆるシンボルとされるべきものであった。ホトは<火跡><火田>に通じるものであり、産鉄族は製鉄上もっとも神聖なものとする溶鉱炉のことであり、火ムスビの顕現する場所であった」という。

近江雅和『出羽物語』に『宇佐郡の表現で炭のことを「イモジ」というと書き、イモジは鋳物師のことであり、八幡族=宇佐族が産鉄族』と書いている。

『続秦氏の研究』で大和岩雄氏は、稲荷・白山・八幡の神々は同一神で秦氏工人が崇拝した鍛冶神との見方をしている。大和氏は、倭人は早くから伽耶に住んでおり、魏の時代(220~265年)の三世紀に倭人は伽耶から鉄を取っていたから、倭系遺物が出土するのであり、「水脈と鉱脈を発見する作業」は、「同一の技術集団が担うものであった」と書いている。

真弓常忠『古代の鉄と神々』(学生社)は、次のように産鉄地について考察している。
倭姫命の巡幸地は、いずれも産鉄地に結びつくとことは著しい。しかも注意を要するのは、それらの地が多く河流・湖沼の水辺に臨[のぞ]んでおり、「スズ」の採取を行った初期製鉄を想わせる点で、「鉄穴流し」による砂鉄採取よりもいちだんと古い段階であったことが判明するのであると記し、真弓氏は、伊勢の五十鈴川の川砂におびただしい砂鉄を認め、二見の海岸の砂にも砂鉄を採取したと述べている。他にも「スズ」に関連した地名に鈴鹿山がある。弥生時代の製鉄において、原料となったのが、褐鉄鉱の団魂である「スズ」だと書いている。
京都八坂神社の祇園祭の鈴鹿山鉾は瀬織津姫神であるし、愛知県東海市横須賀町の民話に、鈴鹿の山の神、瀬織津姫が伊勢の海をこえて、馬走瀬(まはせ)の海岸にやってきたと伝わる。真弓氏は、スサノオノミコトは、新羅から渡来した韓鍛冶集団が租神とした神で斐伊川・神門川に沿って西出雲の奥地に入り、その土地に土着した神であると書く。

菊池展明遺稿集「出雲の国の女神」出雲大神と瀬織津姫  巻末資料 全国瀬織津姫神祭祀社一覧と伝承
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