FC2ブログ

瀬織津姫神

鉄の女神

 ←武蔵国造の信仰-人見稲荷神社 →鉄の女神Ⅱ
 人類の最初の鉄との遭遇は、空から降って来た隕鉄といわれる。以前放映されたNHKのアンアイロードでは、ヒッタイト(トルコ)・スキタイ・漢・匈奴へ鉄の技術が伝わり、倭国に入ってきたのが、弥生時代という。出雲では、縄文晩期(紀元前1000年)に東北地方から土偶が持ち込まれ、後に稲作が伝わり、弥生前期に青銅器・鉄器が伝わっている(荒神谷博物館)。

 石見の江の川河口から五キロ上流に「金鑄兒太明神(かないごだいみょうじん)」の祠がある。江戸時代に銑鉄(せんてつ)を盛んに生産した桜谷たたらの金屋子神社の祠である(『鉄のまほろば』(山陰中央新報社)。
▼江津市 江の川
江の川
▼桜谷たたらの金屋子神社
桜谷金屋子神社

全国の桜谷には、瀬織津姫神の祭祀がみられ、『近江国風土記』逸文は、桜谷の地にある佐久奈度神社(桜谷明神)は、「八張口の神の社 。即ち、伊勢の佐久那太李(さくなだり)の神を忌みて瀬織津姫神を祭れり」と記している。

瀬織津姫神は、遠野の愛宕神社のご祭神に祀られており、『大和志料』も瀬織津姫神の異称の天疎向津媛神を火知津(ひつりつ)姫神と書く。「瀬織津姫神」の持つ火の神徳は、鉄と関連するのではないかと考えている。雲南市の菅谷たたらでは、金屋子神は女の神様と伝わり、金屋子神が降臨したのが桂の木と伝わる。

鹿児島の隼人の籠城した姫木城では、「昔、神功皇后が新羅を攻めたとき、桂姫も従軍して武功があり、勝浦姫の名を賜り、その妹を姫木城に迎えた」という伝承がある(『国分郷土誌』下巻)。『八幡比咩神とは何か』で菊池展明氏は、「桂は中国では月に生える木とされ、桂姫は月とゆかりのある姫神かもしれません。神功皇后の新羅征伐に従軍した神でしかも[神功皇后の妹]と呼称される神、さらに月とも縁深い神という三つの条件を抽出しますと、思わぬ神(女神)に焦点が結ばれることになる。神功皇后の新羅征伐に従軍した女神は、天照大神荒魂が浮かびますし(後略)」とあるが、当時は、瀬織津姫神の神名まで辿りつくことはできなかった。しかし、二〇一九年三月『鹿児島県史料』地誌備考六(非売品)に「正宮傳記曰く、瀬織津姫を祀りしゆゑ姫城という」と記しており、隼人の城の桂姫と呼ばれる女神は、瀬織津姫神と伝えられていた。
▼姫城(鹿児島県霧島市)
天降川と姫城

 下原重仲「鐵山必用記事」(原田伴彦・朝倉尚彦編『日本庶民生活史料集成 第十巻 農山漁民生活』三一書房)
「昔、旱天が続き、民が集まり雨乞いをしたところ、七月七日に今の岩鍋と云う所に高天が原より一柱の神が天降りた。人民が驚いて如何なる神ぞと問うと、神が作金者(かなたくみ)金屋子ノ神なり、金の道具(うつわ)を造り、悪魔(あらぶるかみ)降伏、民安全、五穀豊穣のことを教えようと神託する。磐石(いし)を以て鍋を造ったので彼の地を岩鍋という。四方(よも)に住む山なく、吾は西の方を主(つかさど)る神なればと白鷺に乗って出雲の国の野義(のぎ)ノ郡の非田(ひだ)の山林(もり)に着いて桂の木の一枝(ひとき)の枝末(うれ)に羽を休めた」と伝わる。金屋子神が最初に天降った場所が播磨国岩鍋(現在の兵庫県穴粟市千種町岩野辺と考えられる)である。
大村幸弘『鉄を生みだした帝国』(日本放送協会)によると「古代の日本では季節風を使って高温を得て、製鉄を行っていたことがあるし、季節風をうまく利用するために山の傾斜に炉を作った」と記している。安来市の桜谷もそのような立地で選ばれたのかもしれない。
▼桂の木(菅谷たたら山内高殿前の神木)
57、桂の木

 『日本書紀』や『古語拾遺』には、一つ目の天目一箇神は「作金者(かなだくみ)「雑(くさぐさ)の刀斧(たち)及び鉄鐸を作る神」とあり、鍛冶神となっている。他にも「クグツは体制側からかぶせられた蔑称でククリ(坑道)に通ずる採鉱民のことにほかならない」とある。大分県中津市の古要神社は、姫城で戦っていた隼人がクグツ舞を見物しているところを攻めて勝利を得たと伝えている。放生会で行われていたクグツ舞も隼人の霊を慰めるものであった。『宇佐神宮由緒記』にも鍛冶翁の伝承があり、八幡神を鍛冶神とみる見方もある。柳田国男は、八幡神が「目一つの神」であり、ご神体の御神實(おんみがさね)は神秘な金属であった」と書く。
近江雅和氏は『出羽物語』に宇佐郡の表現で炭のことを「イモジ」というと書き、イモジは鋳物師のことであり、八幡族=宇佐族が産鉄族と書いている。
「鐵山必用記事」の祭文の解説は「金屋子神と金山彦と天ノ目一箇神(あめのまひとつのかみ)とは同神であり、多くの伝説や物語に出てくる白鳥はほとんど白鷺と見てよく、また金屋子神遊行の際、シラサギが神の乗り物となったというのも、シラサギを神の眷属と見なしたもので特に神の乗物の内、シラサギが選ばれたのは、五行説では『金』は色相『白』に配されているからであろう」と記されている。菊池展明氏の考察によると白山信仰や天白神、八幡信仰の白幡の神は、瀬織津姫神であった(『円空と瀬織津姫』上巻・『八幡比咩神とは何か』)。出雲市の伊努神社や平田市の芦高神社に祀られている赤衾伊農意保須美比古佐和気能命(あかぶすまいぬおおすみひこさわけのみこと)は、斐伊川の砂洲を守る彦神(『島根の神々』島根県神社庁)と記されている。菊池氏は、八幡信仰の白幡と対になる赤幡の神に天火明命という日神を重ねている(『八幡比咩神とは何か』)。砂洲を守る彦神は、溶鉱炉の中に太陽神を見出した産鉄族の祀る神でもあったと考えられないだろうか。
▼金屋子神乗狐図 島根・横田町 個人蔵(「絵図に表された製鉄・鍛冶の神像」金屋子神話民俗館より)
金屋子神乗狐図

つづく

瀬織津姫神についての考究書(価格は税込み表示)
風琳堂新刊・令和3年1月13日刊:菊池展明氏遺稿集「出雲の国の女神」 3,080円
「八幡比咩神とは何か」3,850円・「エミシの国の女神」2,750円・「円空と瀬織津姫」上巻3,740円下巻4,180円 
(風琳堂直販へのご注文は、送料・振込料、無料)
関連記事



もくじ  3kaku_s_L.png ご挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 古代八幡信仰
もくじ  3kaku_s_L.png 放生会
もくじ  3kaku_s_L.png 瀬織津姫神
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 観光情報
もくじ  3kaku_s_L.png 大分の温泉
もくじ  3kaku_s_L.png 文化財
もくじ  3kaku_s_L.png 古社
もくじ  3kaku_s_L.png 古寺
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 大分の民話
もくじ  3kaku_s_L.png 遺跡
もくじ  3kaku_s_L.png 古蹟めぐり
もくじ  3kaku_s_L.png ひとりごと
もくじ  3kaku_s_L.png 山伝承
もくじ  3kaku_s_L.png 妙見
もくじ  3kaku_s_L.png 河童伝承
もくじ  3kaku_s_L.png 気になる樹木
もくじ  3kaku_s_L.png 韓国
もくじ  3kaku_s_L.png 田舎暮らし
もくじ  3kaku_s_L.png 鹿児島
もくじ  3kaku_s_L.png 古墳
もくじ  3kaku_s_L.png 日出町
もくじ  3kaku_s_L.png お勧め:工房
もくじ  3kaku_s_L.png ニギハヤヒ
もくじ  3kaku_s_L.png 遠野より
もくじ  3kaku_s_L.png 円空
もくじ  3kaku_s_L.png 風琳堂
もくじ  3kaku_s_L.png 託宣する神
もくじ  3kaku_s_L.png 本の話
もくじ  3kaku_s_L.png 神話・伝承
もくじ  3kaku_s_L.png 壁画古墳
もくじ  3kaku_s_L.png 対馬
もくじ  3kaku_s_L.png 沖縄
もくじ  3kaku_s_L.png 出雲の神
もくじ  3kaku_s_L.png 八十禍津日神
もくじ  3kaku_s_L.png 出雲の国の女神
もくじ  3kaku_s_L.png 鬼伝承
[武蔵国造の信仰-人見稲荷神社]へ [鉄の女神Ⅱ]へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • [武蔵国造の信仰-人見稲荷神社]へ
  • [鉄の女神Ⅱ]へ