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円空

伊吹山の円空仏

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滋賀県と岐阜県の県境に日本百名山の一つの伊吹山(1377m)があります。
高山植物には伊吹山固有種も多く貴重な自然の宝庫です。「日本そばの発祥の地」と伝わり、古くから荒ぶる神がいるという伝承があります。
▼伊吹山
伊吹山jpg

『日本書記』宇治谷孟訳の大和武尊の病没の部分を読んでみます。

近江の五十葺山(伊吹山)に、荒ぶる神のあることを聞いて、剣を外して宮簀媛の家におき、徒歩で行かれた。胆吹山にいくと、山の神は大蛇になって道を塞いだ。大和武尊は主神(かむざね)が蛇になったことを知らないで、「この大蛇はきっと神の使いなんだろう。主神を殺すことができれば、この使いは問題ではない」といわれた。蛇をふみ越えてなお進まれた。このとき山の神は雲をおこして雹を降らせた。霧は峯にかかり、谷は暗くて、行くべき道がなかった。さまよって歩くところが分からなくなった。霧をついて強行すると、どうにか出ることができた。しかし正気を失い酔ったようであった。それで山の下の泉に休んで、そこの水を飲むとやっと気持が醒めた。それでその泉を居醒井(いさめがい)という。大和武尊はここで始めて病気になられた。

『日本書紀』岩波書店版は、大和武尊、始めて痛身(なやみますこと)有り。と記して語注にはナヤムは身の萎えるようになる意とあります。正気を失い酔ったように、また身が萎えるようになったという表現で、いかに伊吹山の神の威力が強かったかが想像できます。

この伊吹山に円空さんの足跡をみることができます。

以下は『円空と瀬織津姫』下巻 菊池展明著の各所から引用
寛文六年(1666)の蝦夷地(北海道)行で洞爺湖の中島に奉納されることを願って彫られた、道内唯一の白衣観音の背に円空は自ら、次の銘を刻んでいた。

うすおく乃いん小嶋 江州伊吹山平等岩僧内
寛文六年丙午七月廿八日
始山登   円空(花押)

「江州」つまり近江国の「伊吹山」、そこにある「平等岩僧」という自認が円空にはあった。
「平等岩」は「行導岩」のことで、中川泉三『伊吹山案内』(明治三十八年)は「土人ビヨド岩と云ふ、八合目の辺にある大磐石なり、古へ膽吹山の開祖、三修沙門錬行の処なりしより行導岩の称あり」と説明している。「ビヨド岩」を漢字表記したのが「平等岩」である。
元録二年(1689)三月、円空は伊吹山で、特大の十一面観音(像高180.5センチ)を、また、この観音の守護神とみられる不動尊(像高99.7サセンチ)の二体を彫っていた。円空は、伊吹山の神をおもってこれらを彫像したにちがいなく、では、彼が伊吹山の神をどのようにみていたかは、次の一首にうかがうことができる。

伊福山法ノ泉の湧出る水汲玉ノ神かとそ思ふ(歌番六一二)
(伊福山〔伊吹山〕法(のり)の泉の湧き出(いづ)る水汲む玉の神かとぞ思ふ)

円空は、伊福山=伊吹山には「法ノ泉」が湧出していて、ここにはその霊水を汲む最上の神(「玉の神」)がいると詠っている。円空にとって、仏法の霊泉を司る神、あるいは霊泉そのものである「水汲玉ノ神」がいるのが伊吹山で、この山神(水神)は十一面観音に化身する神だというのが彼の認識である。
円空仏3

円空は、最初期の修験修行にかかわる伊吹山に、晩年期、初志に立ち戻るようにして十一面観音と不動尊を彫像・奉納した。彼が伊吹山(の神)に特別なおもいを抱いていたことは、十一面観音の背に記された多くの「ことば」が如実に告げている。そこには、上段に漢詩、中段に和歌、下段に彫像経緯と、三つのメッセージがぎっしりと記されていた。
観音像背面1

上段
(起句)桜朶(おうだ)の花枝(かし)は艶(えん)にして更に芳(かんば)し
(承句)観音の香力は蘭房(らんぽう)に透(す)く
(転句)東風(こち)は吹送りて終(つい)に笑(しょう)を成す
(結句)好(よ)く筵前(えんぜん)に向ひて 幾場(いくばくかのじょう)を定めん

菊池氏の意訳では、「桜の花枝は艶やかに垂れ下がり、芳しい香りを放っている。伐りだした桜木をおいた室内には、清く芳しい観音の香りが満ちている。(薬師の浄土である東方瑠璃光世界からは)東風が吹きわたってきて、この風に吹かれて観音は笑みの表情となる。筵(むしろ)に立てた桜木に向かって、わたしは、今、観音を彫ろうとしている。生まれた観音をまつるささやかな場を、ここ(伊吹山)に定めんとおもう」―。
円空仏1

円空仏5

円空仏4

ヤマトタケルに討伐されるべく描かれた伊吹山の「荒ぶる神」だったが、この神が即物的に表れた姿を、『古事記』は「白猪」と書き、『日本書紀』は大蛇としていた。『古事記』によれば、タケルは「この白猪は、伊服岐能山(伊吹山)の神の使者である。今殺さずとも、山から帰る時に(山神を討伐したあとに)殺そう」と「言挙(ことあげ)」したところ、伊吹山神は「大氷雨」を降らせてタケルの正気を失わせたとされる。

『記・紀』には、「荒ぶる神」と記されていた伊吹山の神でしたが、円空は、伊吹山でまるで桜神と対話しているように特別な笑みを浮かべた十一面観音を彫像しました。円空のいた太平寺は大富川の断崖をのぞむ厳しい自然景勝地にあり、不動の滝をはじめ断崖の登攀行道岩(平等岩)の行場などがあります。昭和三十九年に伊吹山山中の太平寺の法灯は消えましたが、現在、十一面観音は山麓に再興された観音堂(米原市太平寺)に、同じく桜木で彫られた不動尊は光明院(米原市加勢野)にまつられています。
案内板
▼大平観音堂
大平観音堂

拝観について

大平堂の管理をしておられる方は、円空さんは不動の滝を思って十一面観音を彫ったと思うとお話していました。白洲正子さんや梅原猛氏などが太平観音堂を訪れたそうです。『円空と瀬織津姫』の著者、菊池氏は桜神・「水汲玉ノ神」の十一面観音に秘められた神を天照大神荒魂の瀬織津姫神と考察していました。

伊吹山で猪や大蛇に化身する神・・・
『日本惣国風土記』には
猪川里 中肥也有神号猪神所祭瀬織津姫也 と記されています。この猪川里がどこかは定かではありませんが、瀬織津姫という神が猪神として祭られたという風土記伝承は、記憶しておきたく思います。



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~ Comment ~

Re: NoTitle 

形名様

難しいご質問をいただき、ありがとうございます。


ヤマトタケルは熊曾や東夷の民が奉じていた荒ぶる神が、草薙の剣に憑依する神霊でもあると知っていた。
だから、剣を置いていったと考えます。

書記は「私は勅命を受けて遠く東夷を討ちました。神恩を被り皇威に頼って、叛く者は罪に従い、荒ぶる神も自ら従いました。・・・・」と記しています。伊吹山の荒ぶる神も自分に従うだろうと過信したのではないでしょうか?

春になっても残雪があると聞いています。いつも全体が霞んでいる印象の伊吹山です。頂上に登って静かに琵琶湖を眺めてみたいです。

NoTitle 

おはようございます。
ヤマトタケルは、神話では勇猛なキャラですが、最後の伊吹山だけは不審なほど弱体ですね、草薙剣も持たないし、もうお前の役目は終わったよと扱われているような気がします。何か裏があるんですかね?
夏場でしたが、伊吹山ハイキングのテレビ番組がありました。高山植物の宝庫ですね。鈴鹿山系まではハイキングしましたが、伊吹山には届きませんでした。冬は積雪も多いようですね。
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